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マイク・ポートノイ擁するパワー・トリオが放つロックンロール! 2023.11.24 ザ・ワイナリー・ドッグス ワールド・ツアー最終公演【Report】

  • Text:Satoyasu Shomura Photo:Yoshika Horita

達人級の腕前を持つ3人ですら
まだまだ遊ぶことができるくらい
ロックンロールの器はデカい

マイク・ポートノイのドリーム・シアター復帰の報も記憶に新しい中での来日となったザ・ワイナリー・ドッグス。自身3作目となった7年半ぶりのアルバム『III』を引っ提げたワールド・ツアーのグランド・ファイナル、LINE CUBE SHIBUYAでの公演の模様をレポートする。

ステージ構成は至ってシンプルなものであり、それぞれの定位置にギター、ベース、ドラム、並びにリッチー・コッツェン(g、vo)用と思われるキーボードがセッティング。ポートノイのドラム・セットは1バス、1タム、2フロア・タムのいわゆるボンゾ・キットを基調としながらキャノン・タムや多点シンバルを追加したものとなっており、バスドラのフロントには今作『III』のジャケを模した3本の爪痕がデザインされていた。

彼らからすればハード・ロック・トリオの偉大な先輩であるグランド・ファンク・レイルロードの「We’re An American Band」をSEに従え、メンバーが登場。オーディエンスが熱狂的な拍手でそれを迎える中、ポートノイがチャイナで豪快に4カウント。1曲目は最新作より「Gaslight」だ。ポートノイが叩き出す重厚でありながら疾走感にも富むリズムに、コッツェン、そしてビリー・シーン(b)はのっけから高速3連符のフレーズを連発。間奏では早速先攻シーン、後攻コッツェンによるソロ・タイムまで挟み込まれ、挨拶がわりの一撃を華麗にオーディエンスへと見舞ってくれる。

小気味の良いシンコペの進行が気持ち良いファンキーな「Xanadu」の後半では、ポートノイの煽りに応えて場内総出のクラップ。オーディエンスも自らのアンサンブルに積極的に参加させるという器量を見せ、「Captain Love」ではシーンが歪んだベースを唸らせると、コッツェンは自身の代名詞の1つとも言えるレガート奏法にてそれに応酬。さらにギターと同じく爽快で伸びやかな歌声を縦横無尽に響かせる。ロング・ブレスを止める際には自らの頭をコツンと小突くなど、アクションもゴキゲンだ(笑)。

ポートノイによるMCでは、今宵が全95本に渡るワールド・ツアーの最終公演となること。そしてザ・ワイナリー・ドッグスとして正真正銘の初ステージが日本であったことなどが感慨深げに語られ、今の3人の雰囲気をピタリと表すかのように“連戦連勝絶好調”的な意味を持ち、自身の2ndアルバムのタイトル・トラックともなった「Hot Streak」にてライヴは再開。トリッキーなリフがリードする「Stars」でのシーンは親指を中心とした静かなピッキングで、ポートノイもそちらに合わせて8ビートを淡々と刻んでいく。

途中、コッツェンがプレイに熱を帯びるが余りに弦を切ってしまうというトラブルが見られるも、ギターを持ち替えることなくそのままの状態で圧巻のギター・ソロを弾ききってしまった。その様が実に誇らしかったのであろう。曲終わりではポートノイが満面のドヤ顔(笑)にてコッツェンの名を讃えていた。朗々としたヴォーカルが冴える「Damaged」ではスティックをホット・ロッドへと持ち替えるなどの光景も見られた比較的メロウなブロックが終わると、”待ってました”なドラム・ソロへ。クロス・スティッキングや”ダダダ! ダダダ! ダダダ! ダッ!”というわかりやすいキメを随所に盛り込みつつのエンタメ指数高めのソロに、オーディエンスは割れんばかりの歓声を贈る。

ポートノイの独壇場を経てからプレイされたのは、ハード・ロッキンな短音リフと疾走する2ビートが印象的な「The Other Side」。ブレイクではポートノイが頭上高くスティックを放り投げ、そちらを華麗にキャッチ。間奏では、シンバル・ミュートをプレイ中の片手間にシーンが担当してしまうなど、余裕しゃくしゃくと言ったばかりの一幕も垣間見えた上、先ほどのコッツェンのトラブルなどを含めたライヴならではの瞬間瞬間をメンバーが本当に楽しそうにしていたことが何よりもうれしかった。達人級の腕前を持つ3人ですら、まだまだハードなロックンロールで遊びたいし、そんな3人ですらまだまだ遊ぶことができるくらいロックンロールの器はデカい、ということなのだろう。ああ、ロックに万歳。

ビリー・シーンという男が持つ10本の指と2本の腕を余すところなく使うと、ベース・ギターという楽器はこんなにも多種多様な音が鳴るものなのかといったベース・ソロを挟んだあとは、いよいよライヴも終盤戦だ。ハード・ロック・トリオらしい大仰なキメが繰り出される「The Red Wine」では、コッツェンのワウがかったフレーズや、シーンのドリンクの空き瓶でのスライドなどが見られ、ポートノイのお家芸とも言える変拍子の間奏の中では、コッツェンとシーンが互いの腰でおしくらまんじゅうのようなアクションをするというお茶目過ぎる瞬間(笑)までもが飛び出し、「I’m Not Angel」 は特にプレイのテクニックだけではなく、コーラス・ワークのグルーヴ感の妙技に唸らされる思いであった。

そして本編ラストとして選曲されたのは、2ndアルバムのオープニングを飾る「Oblivion」。ラストのもうひと暴れにふさわしい疾走ソングであり、ドカドカと踏み鳴らされるツーバスがリードするパワフル極まりないハード・ロックで、オーディエンスを完膚なきまでにぶん回しまくる。

しかし、これではまだまだ足りないと言わんばかりにオーディエンスはアンコールを求め、そちらに応え、再び3人がステージにオン。コッツェンがステージ前方にセッティングされていたキーボードに腰を下ろすと、ファンキーなエレピが跳ね回る「Regret」がプレイされる。ポートノイが客席へ手持ちのスマホ・ライトを照らすように指示。LINE CUBE SHIBUYA一面に広がる銀河に、コッツェンのハスキー・ボイスが響き渡る感動的な一幕であった。

ついにライヴは最後の1曲を残すのみとなり、この局面でバンドが披露したのは1stアルバムの1曲目である「Elevate」であった。先のMCであった通りであるが、初ステージを日本で踏むことを選択してくれたザ・ワイナリー・ドッグスの3人と我々オーディエンスとの絆を祝福するかのような、ポジティヴなエネルギーがアタマ打ちのリズムに乗せて豪快に放たれていく。何度も繰り返される大仰なキメ、鳴り止むことのないクラップ。ハード・ロックなパーティーのシメとして、これ以上の瞬間がないくらいの盛り上がりを見せたところで、ライヴは終了。

満面の笑みを浮かべるポートノイとコッツェン、そして最後にはシーンがストラップを外し、片手でベースをぐるりと1回転。どこまでもパワフルなトリオであった。最後の最後に3人が肩を組みオーディエンスと記念撮影。インスト版の「Regret」をクロージングSEとして、ザ・ワイナリー・ドッグスのワールド・ツアーは大団円を迎えたのであった。